とことん「本質追求」コラム第317話 安売り思考が、身を滅ぼすたった1つの理由。

 

 

 

「この商品はいくらだったら売れるでしょうか?  」

 

新規事業の立ち上げプロジェクトに携わる際、よく議題にのぼるテーマが「価格の決定」。

 

販売が最もスムーズにいき、かつ利益の出る、ちょうど良いバランスの価格を決定するのは非常に難しく大事な意思決定となります。

 

「値決めは経営」と京セラ創業者の稲盛和夫氏が喝破した通り、価格は営業云々の問題だけではなく、給与などの一般経費を稼ぎ出す「粗利益」を決定しますから当然といえば当然。

 

しかし、その重要な価格の決定にもかかわらず、営業会議で「どうする?」など皆の意見を寄せ集めるケースが意外にも多いのが現実です。

 

  • コストの積算もしておらず…
  • 競合商品の整理もできておらず…
  • マーケットの渇望感も曖昧なまま…

 

それなのに、乱暴にも「安いほうが売れる!」と、営業の井戸端会議の延長線上で価格が決まりそうになるのを見てきたのは、これまで1度や2度ではありません。

 

そもそも、安けりゃ売れる!という発想は、売り手の独りよがりの典型的な姿勢です。

 

もちろん、どこのメーカーの品を購入しても大差のない状態となった「コモディティ商品」であれば、価格で勝負するほかありません。

しかし、独自性の高い革新型新商品であれば、安けりゃ売れる! という姿勢はご法度です。

 

 

先日、日経新聞のビジネス欄に、「セブンイレブンとイオンのPB商品に対する取り組み方の相違」が、加工食品メーカーの取材記事として書かれていました。

 

イオンは『安さ、いくらで売れるか』から入ってくるから深みがないように思える。

でも、セブンは『おいしさ』を価値基準として深掘りしている。

踏み込み度合い、思想が大きく異なっている…と。

 

結果、セブン売上高 4兆6780億円、営業利益 2441億で営業利益率は、5.22%。

イオンは、売上高8兆2101億、営業利益 1847億で同2.25%と、2倍以上の利益率を弾き出しています。

 

良いものをベストな値段で売れば、当然ながら利益は増えます。

下請けを叩いたり、原価を絞ったりせずとも、利益は増えます。

 

価格が安けりゃ売れる! と考えるのは、一見すると顧客のためを思っているように見えても本質は真逆です。

 

顧客は価値がわからないから競合より安けりゃ買うでしょ!と、顧客を小馬鹿にしていると捉えられても仕方ありません。

私から見れば、脳みそに汗をかいて考えたくない…という自堕落的な態度にさえ見えます。

 

そういった企業姿勢であれば、早晩客離れが確実に起こり、良くても停滞、悪ければ倒産へと追い込まれるでしょう。

 

理由は当然ながら、顧客の価値を真剣に考えない企業は、必ず市場から見放されるからです。

 

 

確かに、考えるという作業は、一見楽そうに見えて、大変な苦悩を伴うものです。

 

人は、答えが出ないことに耐えられず、早まって誤った判断を下すことが多い。正しい判断のためには、しばらく答えが出ない「宙ぶらりん」の状態に耐える習慣づけが必要。

そう、京都大学の中西輝政名誉教授も言っている通り、困難な課題には真摯に向き合うことは、大変な取り組みであることは事実です。

 

イギリスの優れた戦略思想家であるリデル・ハートもこう言っています。

「ものごとがいずれにも決しない状態に耐えるのはとてもつらいことである。そのつらさに耐えかねて”死に至る道”(後先考えずに飛び込んでしまう衝動的行動)に逃げ道を求めようとするものは、昔から国家にも個人にもあった。しかし、このつらい「宙ぶらりん」の状態に耐えることこそ、可能性の明確でない勝利の幻想を追い求め、国家を灰燼(かいじん)に帰せしめるよりは、はるかに優れた選択なのだと銘記すべきである」と。

 

少し話が飛躍してしまう題材ですが、「課題を突きつけられた時に、安直に答えを出さない忍耐力と本質に向き合い解決をしようとする思考力」の大切さがとてもわかりやすく表現されています。

 

これを商売に持ち込むと、

  • 我々が提供している「商品・サービス」の価値は何だろうか?
  • その価値は、顧客の過去、現在、未来にどのような影響をもたらすのであろうか?
  • その影響は、価値転換…つまり「価格」に置き換えるとどの程度のインパクトなのか?

 

こういった商売の本質を突き詰めることで、結果「適正な売価(価格)」というものが決定されていくほうが、自社にとっても、顧客にとってもハッピーな選択なのではないでしょうか?

 

お客さんのことを真剣に考える企業であれば、規模の大小は別にして、必ず市場からは支持されます。

 

教科書的な価格決定法である「コスト基準法」や「競合基準法」も必要不可欠なアプローチです。

しかし、商売の原点が「物物交換」である以上、最も重要なのは、マーケティング戦略基準…つまり「顧客が受け取る価値」からのアプローチを決して避けて通ってはいけません。

 

このアプローチを無視すると、営業現場で勝てる勝負に勝つことができず、負け戦が続き社員が疲弊します。

 

 

利益の源泉を作り出す「中核作業」に関しては、それこそ吐き気がするほど考えぬく必要があります。

安直に価格を決めるのはご法度。

 

御社での価格決定は、どこまで徹底して思考され意思決定をされていますでしょうか?