とことん「本質追求」コラム第320話 伸びる新規事業、苦しむ新規事業

 

 

 

「この事業、撤退も考えないといけないかも知れません」

 

 

以前、お手伝いした企業の幹部にそう話したことがあります。

 

しかし、社長の不退転の決意に触れ一旦は、その思いを封じ込め、「突破できる策」を死ぬほど考えて、全社一丸となって、ある程度の収益事業には育て上げるサポートをした経験があります。

 

あれから数年。

残念ながら、同事業から社長は撤退を決意されたそうです。

 

よく「成功とは諦めないことである」という美学が語られています。

 

私も、この美学を否定することはありません。

自分自身の生き方、仕事に対する姿勢、全てにおいて「諦めないこと」を強くマインドセットしているつもりです。

諦めない姿勢を持ち続けることで、多くの「能力」も育んでくれることも知っているつもりです。

 

たくさんの成功する仮説を立て、失敗を経験することで、「なぜ」を振り返ることで得る経験値。

突破できた仮説の論拠を振り返り、「成功する策」の特性を知り得る経験。

 

たくさんの「攻めの体験」から、たくさんの「引き出し」が増えていくことは、コンサルタントにとっての財産にもなっています。

ただ、それでも「撤退戦略の重要性」も同時によく理解しているつもりです。

 

原理原則とバランスが大事なのでしょう。

 

何度か本コラムで取り上げていますが

  • シナジー(技術や市場)の効かない事業はやらない。
  • 自社の強みが発揮できない事業はやらない。(想いが少ない事業も同じ)
  • 細部(ディテール)にこだわることができない事業はやらない。

 

という原理原則を守らないと、大多数の場合は「苦しみながら撤退」という決断を余儀なくされています。

 

ついつい将来の成長や会社のキャッシュフローを強固しようと新規事業を立ち上げ急ぐと、原理原則を軽んじたまま走ってしまいがちですが、振り返ってみると多くの経営者は、「そうだったよね」と原理原則に立戻ったりします。

 

だからと言って、走った直後に「撤退」という決断も、場合によっては早計になることもあります。

 

なぜなら、「諦めない精神」を身につけるために、新規事業の立ち上げに苦労することは、とても大事な「攻め体験」になるからです。

 

冒頭の会社は、社長をはじめ素晴らしい社員に恵まれており、この攻めの姿勢が一貫しています。

たとえ、その新規事業が永続的な事業にならずとも、「ここまで成果をあげた」「ここまで事業を伸ばした!」という自信が、ほかの仕事にも強く生きていることが外部からもハッキリと見ることができます。

 

新規事業を通じて社員の能力向上に繋げるという効果。

これは見逃してはいけないでしょう。

 

それに、すぐに諦めてしまう経験が、もしも社内文化として染み込んでしまったら…

それは全体の企業活動の活力さえも、奪う根元になってしまうかも知れません。

 

撤退の意思決定と諦めない気持ちの保持。

 

このバランス感覚タイミングこそが大事なのではないでしょうか。

 

そのためにも「撤退の基準」を定めておくと良いでしょう。

 

タイミングは、人の動き、気持ち、組織の感情を見て計るべきですが、「自社が取り組むべき事業か否かの再検討事項」だけは、今決めることができます。

 

 

自社が取り組むべき事業か否か。

先に述べた原理原則に従うことは、もちろんのことですが、できる限り客観視するための視点を持っておくと便利です。

 

原理原則では、

  • シナジー(技術や市場)の効かない事業はやらない。
  • 自社の強みが発揮できない事業はやらない。(想いが少ない事業も同じ)
  • 細部(ディテール)にこだわることができない事業はやらない。

 

ことでしたが、「強み」を履き違えていたり、「細部にこだわる」“つもり”であったりと、得てして自己評価を甘く見がちになります。

 

これは人間の特性ですから致し方ありません。

でも、自己(自社)評価、や自己(自社)認識が、ズレていると、必ず「苦しむ」ことになります。

 

出来得る限り、市場との認識をずれないようにマッチングさせることが大事です。

 

どう評価するか。

 

それは、「強み」を「経験」と置き換えること。

「細部にこだわる」を「考える時間、行動する時間」に置き換えることで、ある程度の客観視が可能になります。

 

 

強みとは、これまで一生懸命に事業活動をしてきた結果、お客様から受けた評価の凝縮です。

商品やサービスなどの表面的な現象ではなく、「何をもってお客様に貢献してきたのか?」という経験値です。

 

この経験値が、新規事業にも重なっているのか?

この評価基準を持つことで、「本当に強みを持って新規事業に当たっているのか否か」がチェックできるはずです。

 

 

また、「細部にこだわる」ことは、どれだけ真摯に顧客に貢献できるのか?にかかってきます。

平たく言えば、自社の商品やサービスを通じて、顧客を喜ばせることが好きで好きでたまらないというように言い換えることが出来ます。

 

今、立ち上がりに苦しんでいる事業があったら、振り返って考えてみてください。

 

 

「この1週間、どれだけ未来顧客の喜びのことに想いを馳せたでしょうか?」

「お客様の気持ちを揺さぶるアイディアを考えていて、夜中に飛び起きたことは何回あったでしょうか?」

 

考えた時間数。

夜中に飛び起きた回数。

 

はたまた、夢に出てきた回数。友人に話した回数。実際の商品場面や未来の想定顧客に接した回数や時間。

 

こういった「物理的な計測」の大小が、「ディテールにこだわることができるか否か」の客観的な基準となります。

 

伸びる新規事業は、キーマン、または主要メンバー全員の、この経験値と想いの時間数が、間違いなく豊富です。

逆に苦しむ事業は、経験値も少なく、想いへの時間数も少ないはずです。

 

御社の新規事業を振り返って、いかがでしょうか?