とことん「本質追求」コラム第405話 高いから売れない? の真偽を追求する方法

 

 

 

「営業から“うちの商品は高いから売れない”と言われています。価格を下げようか悩んでいますが…どう思いますか?」

 

クライアント企業さんとのプロジェクト会議から出た質問です。

 

まだ「あるシナリオ」が出来上がっていないので、確信を持ってお答えすることは避けましたが、それでも大きな方向性だけはお伝えしました。

 

同社の商品を購入する客層。

そして、顧客に与えている効用。

さらには、そのコストパフォーマンス。

 

これら「売れる価格設定の条件」から考えると、藤冨は決して高くはないと考えています、と。

 

藤冨は、価格に対してご相談を受けた時に、必ずイメージをすることがあります。

それが「あるシナリオ」なのですが、単刀直入に言うと「営業トークで説得できるかどうか」をイメージしているのです。

 

「その商品の魅力を伝え、顧客に貢献できる機能、効用などを伝え、相手が享受できるであろう利益を伝えた後に、正々堂々と価格を伝えられるかどうか?」

 

この1点をクリアにイメージして「私なら説得できる、できない」を一つの判断材料にしています。

 

営業トークは、

 

  • ターゲットの懐事情
  • 顧客利益
  • 競合商品や代替消費(飛行機VS新幹線、エアコンVS石油ストーブなど)との差別的優位性

 

などを考慮しながら組み立てていきます。

 

いくら商品に魅力があっても、顧客利益に魅力がなければ、高単価を提示することが出来ません。

また、競合や代替消費との差別的な優位性が少なければ、やはり高単価を提示できません。

 

欲しい…という感情に火をつけられたとしても、買おう!という意思決定をしてもらうためには、「説得材料」が必要なのです。

 

ちなみに、ここで言う「説得」は、商談の際に見込客を説得する…という意味ではありません。

大型商談が面白いように決まる「SPIN営業法」のように、質問法によって商談相手が「自己説得」するように商談を組み立てることも十分に「説得材料」と呼ぶことが出来ます。

 

何れにしても「価格の裏付けとなる説得材料」が必要なのです。

 

 

例えば、特殊液の噴射水力で鉄などを切る工業用カッターを開発したとしましょう。

 

 

ターゲットは、金属加工業で、これまでの工業用カッターと異なり、鉄に熱を持ちません。

不良品率が下がることが期待できます。

 

しかし、従来品が100万円程度に対して、新商品は500万円もします。

 

営業部隊に話すと「そんな高いの売れませんよ!」と、反射神経が働いたように「拒否反応」が出る始末。

 

「いいから、まずはやってみよう!」と背中を押したものの、数ヶ月経っても全く売れない。

 

営業に聞くと、「高いからですよ」と、一蹴される始末。

社長は、「やっぱり価格設定を間違えたのかな…」と肩を落としてしまう…。

 

そんなケースを思い描いてください。

 

 

いかがでしょう。この社長と営業マンのやり取りを見て。

何か、ものすごく重要なことが欠落してはいないでしょうか?

 

当コラムの読者さんであれば、何度も繰り返されているテーマなので、パッと思い浮かんだかと思います。

そうです。

 

「新商品の世界初の特殊“液”で鉄を切る工業用カッター」が顧客に与えるメリット、利益の追求です。

 

 

  • 不良品率が下がる…

 

これが、当社商品と従来品の価格差「400万円」を埋めるだけのインパクトがあれば、それだけで十分に「説得材料」となります。

しかし、不良品率の改善効果が、月間8万円程度だとしたら、4年かけて回収しなければなりません。

これだけ社会変化が激しい時代に4年経たないと回収できない新設備を、不良品率の低下だけで購入するでしょうか?

 

「説得材料」が少なすぎて、売れるイメージがしません。

 

 

しかし、同じ商品、同じ提案先でも、説得材料を増やすことで「お買い得感」は出来ます。

 

例えば

 

  • 従来品カッターよりも、精密に加工できる。

その影響範囲は

 

→ 取引先からの評価が高まる。(=顧客流出の防止や、紹介商談の増大)

→ 納品先側での検査などを最小限にできる(=顧客流出の防止や、紹介商談の増大)

→ 諦めていた機能やデザインが可能になる。(=販売チャンスの増大)

→ 再加工などの出戻りが削減できる(=作業集中による生産性向上)

→ 後工程がなくなる(=製造コストの削減)

 

 

  • 材料を選ばずに切断できる(従来品カッターは金属のみ)

→ 1台何役もできるので、設備稼働率が高まる(=製造コストの抑制)

→ 従業員の習熟度が高まる(=教育コストの抑制)

 

  • 切断時間が従来よりも2倍早い

→ 設備から生み出される価値が2倍上がる(=売上が上がる)

→ 対労務コストが1/2に削減される(=人件費の抑制)

 

などなど、いわゆる営業マンが口にする「当社商品の特徴」をお客様視点から眺め直し、実際にお客様にはどんな「実益」があるのか?という視点で、当社商品の価値を再定義していくと、意外や意外…

同じ商品なのにいきなり割安感が出てきたりするものです。

 

 

注)この図表・概念は「大型商談を成約に導く「SPIN」営業術」(海と月社)を参考にしています。

 

いかがでしょうか?

営業現場からの「高くて売れない!」という文句を鵜呑みにする前に、もう一度顧客視点から見た「提供価値(=投資で得られる利益やメリット)」を徹底して浮き彫りにすることが大事であることに気づかされるはずです。

 

Amazonの創業者のジェフ・ベゾスは、自身の書籍(ジェフ・ベゾスはこうして世界の消費を一変させた)の中で、成功する会社の2通りの思考パターンを示しています。

 

一つ目が、「とにかく働いて働いて、その分の高いマージン料を消費者に納得してもらう
やり方」をしている企業。

 

二つ目が、「とにかく働いて働いて、できるだけ低マージンで提供できるものをつくると
いうやり方」をしている企業。

 

この2通りだと。

 

御社では、高い価格設定をした商品を販売する際、とにかく働いて働いて(頭を働かせて)、お客様に納得してもらえる“説得材料”を死ぬほど考え抜いていますでしょうか?

 

 

追伸

ベゾス氏は、高いマージンをアップルの思考、低いマージンを自社(amazon)の思考と表現して、自社戦略の優位性を訴えていますが…

amazon社は、小売業者であり且つ、膨大な顧客リストを抱えています。

メーカーの思考ではありませんので、その前提条件を押さえずに表面だけ真似すると、取り返しのつかないことになりますので、注意が必要です。