とことん「本質追求」コラム第426話 未来に適合する自社像をデザインする

 

『このまま第二波が来て、4月5月の緊急事態宣言が繰り返されたら、もう廃業しかありません。新規事業といっても時間がかかるでしょうし。どうしようか本当に迷っています』 

 

先日、初めてのご相談でお会いした社長さんから、深刻な胸の内を伺いました。 

詳細なことはお伝えできませんが、多くの業界が同じ状況にあり、多くの企業で同じような問題を抱えています。 

 

「第二波がきて、もしも緊急事態宣言が再発動されたとしたら、どれだけの減収に追い込まれるのだろうか?」 

 

既存事業を突き詰めるべきか

それとも 

新規事業に打って出るか 

 

その判断は、個々の置かれた「業界事情」「既存事業の競争環境」「財務状況」などによって変わります。 

一様に「こうあるべき!」だと断言するのは乱暴すぎます。 

 

実際、帝国データバンクの調査では「創業以来、47.7%が“本業”に変化」とのレポートが存在していました。 

ざっくり言うと、半分が「既存事業を突き詰め」半分が「新規事業に打って出た」と見て取れます。 

2015年のデータと少し古いですが、リーマンショック後のデータなので、一つの判断材料としては使えるでしょう。 

 

時代がこうなったからこう打って出る! 

確かに、教科書的には「正しい」(感じ)答えはあります。

 

ところが、教科書的に正しいからと言って、それがその企業の進むべき道とは限りません。 

 

教科書は、歴史から教訓は学べても、確固たる未来の進むべき道は照らしてはくれません。 

歴史を下敷きにして未来を見ることはとても大事です。

しかし、歴史での結末が、答えではないはずです。

 

やはり、個々の置かれた状況、目指すべき道、社長の信念などによって、方向性を決定する必要があると思うのです。 

 

たとえ、その業界が消えてしまっても…です。

 

「つづら」と言う商品はご存知ですか?

細く幅を揃えた竹を縦横に編んである四角い箱です。 

通気性が良く、柿渋と漆の効果で湿度を適宜に保つので防虫効果があり、よく着物入れに使われていたものです。 

 

7年前に着物屋のクライアントさんをお手伝いしていましたが、当時のデータで「着物市場はたったの2500億円」でした。

大衆商品から高額商品まである「時計市場」が9000億円程度ですから、かなり小さなマーケットです。

 

時代と共に、どんどん市場が小さくなり、合わせて業界も小さくなっていきました。 

 

その縮小市場で唯一生き残った「つづら屋」が東京・人形町にあります。

1860年代初頭から続く「岩井つづら店」さんと言うお店ですが、ネットで見る限り、つづらを製造しているのは、国内唯一同店だけです。 

 

岩井つづら店さんも時代の変化と共に、「廃業」「業種転換」も考えたはずです。 

途中、ジリ貧の中「未来の選択」に頭を抱えたかも知れません。 

 

それでも耐えに耐えた結果、競合店が次々と撤退した後の市場は「独壇場」です。 

独占企業は、価格決定権を持ちます。 

特に「つづら」は高級な着物入れとして最適な入れ物です。 

高額な着物となると、何百万、何千万円になります。 

そんな大事な着物を入れる富裕層相手の商売ですから、ある程度の投資は惜しまないはずです。 

 

競争がなく、価格決定権がある。 

当然ながら、利益の獲得も容易になります。 

 

こうした事例から考察するに、「既存市場」にこだわるのは、決して間違った選択ではないケースだと言えるでしょう。 

 

ただし、お察しの良いあなたならお分かりの通り、「つづら業界」で唯一生き残った「岩井つづら店」をベースに、自社戦略を考えても良いかどうか。 

レアケースであるだけに、慎重に捉える必要があります。 

 

業界の縮小と共に、自社も縮小する覚悟があること

業界に強いこだわりがあり、運命共同体の覚悟があること 

競争環境がなくなり、無風状態になるまで「冷や飯」を食らう覚悟があること 

 

極論ではありますが、多少の濃度の差こそあれ既存事業にこだわるのであれば、的確な見通しと覚悟を決めておく必要があろうかと思います。 

 

やはり、事業の規模、成果の出し易さは「時代の流れに沿った事業内容(商品やサービス)」によって規定されています。 

 

 

実際、コロナ禍の最中のみならず、アフターコロナを睨んだ事業が海外では続々と出現し伸びてきています。

 

・トレーニング動画の再生や運動記録、食事指導など1つのアプリで実現した中国フィットネスアプリが登録者数で2億人に達したり…

・注文から最短29分で生鮮品を届ける中国ECサイトが急成長したり…

・テレワークを実現するために、様々なソフトを連携させるアメリカのAPI開発会社が躍進したり…

 

アフターコロナを睨んだ「コロテック企業」がアメリカや中国では、勢いを増してきています。

 

企業としての評価額が10億ドル(約1250億円)以上で、非上場のベンチャー企業「コロテック企業」は、アメリカでは225社、中国では125社が誕生していると言われています。

 

対する日本は、たったの3社。

国内スタートアップ企業への投資額は年4千億円程度に対し、アメリカでは14兆円、中国は10兆円と雲泥の差があることも背景にあるのですが…

 

それよりも「危機をチャンスに変える発想力そのもの」が、差を生み出しているのではないでしょうか?

新しい時代には、新しい顧客像が存在します。

 

企業の目的が「顧客の創造」であるならば、アフターコロナの顧客像を浮き彫りにし、その顧客から必要とされる存在になることが、企業活動そのものに求められているのではないでしょうか?

 

御社では、アフターコロナ後の自社像、顧客像をどう捉えていますか?