とことん「本質追求」コラム第60話 その販売戦略…致命傷になりませんか?

「最初は商品をタダ配りして、消耗品で儲けましょうよ!いわゆるフリー戦略ですよね?!」

 

プロジェクトメンバーが盛り上がる中、私の一言の発言で社長の眼つきが急に険しくなりました。

 

集合的無意識の世界でしょうか。 
私が関わるプロジェクトは、全く別な業種の企業なのに、何故か同じような境遇にあったり、同じような質問が時々あります。 

別の企業でも同じテーマで議論し、埒が明かずにいので、すぐさまレポートを書いて「その戦略を採用するとこんな所にも影響がでますよ。それでも大丈夫ですか?」と問いたことがあったので、その質問を瞬時にしたわけです。

 

と言うのも販売戦略がどんなに美しくても、結果的に財務に与えるインパクトまで視野を広げないと的確な経営判断は出来ません。

財務は結果論だと軽視してはなりません。 
結果をコントロールするのが、経営者の役目だからです。

確かに、プロジェクトで扱っている商品は、無料配布をして消耗品で儲けることは充分にできると私も感じてました。

諸手を挙げて賛成し「具体的戦術」の組み立てに議題を移したい所でした。

でも、何故、私のような参謀をわざわざ雇っているのだろうか?と考えると、深読みせざるを得ません。

誰でも簡単にジャッジできるなら外部を入れる必要はないですし…。 

 

「もしかして資金繰りが厳しいのかも…。少しでも眠れる資産からキャッシュを稼ぎたい?」

「経営は規模を拡大させている時、資金繰りがタイトになることが多い… もしかしたら…」

そう直感がよぎったのです。

消耗品が資金繰りを改善するほどのボリュームになるには、かなりの時間が必要です。 
だから、こう水を指したのです。

「もうすぐ決算期ですよね?在庫が無くなれば利益が減ります。大量に在庫を放出して、利益が無くなってしまうと、銀行の評価が下がる可能性がありますが…大丈夫ですか?」と。 

50万円の商品を100個仕入れて、在庫が5000万円分あったとします。

これが全部さばけていると、仕入高は5000万円計上されます。 
売上が1億円なら5000万円の粗利益が計上されるわけです。 
人件費などの一般管理費が6000万円だとすると1000万円の赤字。 
在庫をさばいてしまったがために「赤字決算」となるわけです。

 

ところが在庫が50個残っていると2500万円分仕入高から差し引きますから、仕入高は2500万円となります。
売上1億だと粗利益は7500万円。 
一般管理費が6000万円だと1500万円の利益が出る計算になります。 (※注1)

 

在庫を大放出したが為に赤字決算に陥り、銀行からの与信枠が引き下がる。 (過去の決算状況次第ですが…)

消耗品販売による売上回収のスピードが追いつかず資金ショートに陥る。

与信枠が下がった為に資金調達ができず、ドボンになる。

という「最悪のシナリオ」を描いて、社長に考える材料を提示したことで、急に目つきがかわり神妙な空気に移り変わったのでした。

 

このように販売戦略の意思決定は、経営に強い影響を及ぼす可能性もあるのです。

 

そんな想定がなされる時は…営業戦略の決定を、営業部隊だけに任せてはいけません。 

財務に影響を与える判断だと分かったら、早急に財務責任者を呼んで多方面から戦略案を検討することが重要なのです。 

決算は経営者のひとつ、ひとつの意思決定の結果です。 
言葉を変えれば、意思決定を的確に行わないと壊れた飛行機のようにコントロール不能状態に陥ります。 

ヘタを打たないためにも、今の意思決定がどのように財務に影響を及ぼすのか…冷静に見極めることが肝心なのです。

<補足>
財務のカラクリは、どなたにも分かりやく書いたのつもりでしたが、専門家から「誤解を招きやすい」とのご指摘を受けたので、正しい表現も注釈して入れておきます。

(注1)
期首在庫(0円)+当期仕入(5千万)-期末在庫(0円)=売上原価5千万円
になります。
これで売上が1億だと5千万円の粗利となります。そこから販管費6000万円を引くと1000万円の赤字計上となります。

ところが、タダ配りせずに、期末在庫が50個(@50万円)残っていると…
期首在庫(0円)+当期仕入(5千万円)ー期末在庫(2500万円)=売上原価2500万円となります。

売上(1億)ー売上原価(2500万円)=粗利7500万円になる…という計算になります。