とことん「本質追求」コラム第469話 新規事業アイデアを社員から募ってはいけない理由

 

 

「新規事業を社員から公募して先日発表会をしました。ただ、どうもしっくり来なくて…。◯◯の案だけが行けそうな気がしますが、先生はどう思いますか?」

先日、旧知の経営者からご相談を受けました。

日本アイ・オー・シーのセミナーやコンサルティングを受けたことがないので、致し方ないのですが…
そもそも論として、上記の質問だけで大きな過ちを冒していたので、ご相談内容に答えることなく、姿勢を正してもらう助言を行いました。

コロナ禍で「新規事業を起こそう!」と同じ悩みを抱えている経営者もたくさんいると思い、社長にご許可を頂き、上記の助言を公開することにご快諾を頂きましたので、皆さんにもお伝えしたいと思います。

少々毒舌になりますが、お読みください。

まず、冒頭のご相談はそもそも的が外れています。
大企業で、事業予算が明確に確保できる体制が作れるならまだしも、新規の事業を社員から公募する時点で間違っています。

大手企業の社内ベンチャーで「失敗したら席はないぞ!」と背水の陣に置かれるような制度の中での新規事業であれば、成功する確率はあるでしょう。

しかし、上述のケースでは「事業アイデアだけ社内公募」をしていました。
アイデアを出した人が責任を取る制度があるわけでもありません。

単に「我が社が新規事業をやるとしたら何が良いだろうか?」と、投げかけただけ。
それでは、よほど問題意識が高く、いずれ独立するような社員からしか、まともなアイデアが出るはずがありません。
「今●●が流行していますよ」とか、「隣町で△△が成功していますよ」など、新規事業が成功する「条件」なども考慮しないアイデアしか集まらないでしょう。

よろしいですか。
それでも、社員それぞれが必死に考えたアイデアです。
最終的に、それを無下にしたら、社員のモチベーションは下がりませんかね?

最終的に却下するくらいなら、そもそも公募なんてしない方がマシです。
信頼できる側近と一献交わしながら、ディスカッションするならまだしも、社運をかける仕事を社員の頭に依存しようとするのは、その時点で「失敗」のスタートでしかありません。

私の経験上、本当に切羽詰まった状況や、精神的に背水の陣を強いられているような状況からの「成功確率」は高い。
しかし、ぬるま湯からは成功しそうな事業であっても何故か上手くいかない。

その理由は、「成功への執着心」が希薄だからだと私は結論づけています。

そもそも、新規事業を成功させるためには、「成功への執着心」「高い集中力」「自社の強みを生かした事業」の3つの要素を見落としてはなりません。

もちろん3条件を満たせば、成功するというわけではありません。
しかし、この3条件を満たさなければ、高い確率で「失敗」します。

コロナによって、これからの時代は、変化のスピードがさらに加速するでしょうから、今手痛い失敗をすることは出来るだけ避けたいところ。

だからこそ、冒頭の社長さんのように「広く意見を集めて失敗のリスクを下げたい」「社員一丸となって、戦える土壌を作りたい!」という衝動に駆られるのは、心情としては理解ができます。

ただ、本当の意味での背水の陣に置かれる立場の人、最後の最後まで諦めずに事業を存続させるぞ…と成功に執着できる人は、組織の中ではただ一人です。

会社の借入金の連帯保証人になり、失敗責任を全て引き受ける社長しかいません。

そもそも、新規事業でも、ソフトウェアのプログラムでも、あらゆる機械物でも「設計」という仕事は、ゼロから完成までの全体像がハッキリとイメージできていないと優れた結果につながりません。

優れた設計は、天才1人の頭から生み出される。 と言いますが、これは本当。
事業の設計は、責任を持った当事者が行うべきなのです。

「成功への執着心」は、発案した人間が本気で成し遂げたい…という思いから生まれてきます。
・何故、そこに着眼したのか
・何故、そこにビジネスチャンスを見出したのか
・何故、イケる!と直感が走ったのか

そこには「強い問題意識」が横たわっているはずです。
その強い問題意識が「成功への執着心」を生み出してくれます。

藤冨がこれまで、様々な業界の新規事業に関与してきた中で、成功しているプロジェクトは、間違いなく社長が「成功への執着心」を強く抱いています。

そして、新規事業を成功させるための条件である「高い集中力」は、執着心と切っても切れない関係にあります。

冒頭に背水の陣を引く…とありましたが、既存の仕事に煽られている状態からの新規事業立ち上げは、やはり限界があります。

したがって、事業の構想が明確になり、後は「実行するだけ!」というステージにいったら、「社員・スタッフとの伴走」が必要です。
基本設計は一人で行うが、製造や組み立ては、大勢の力が必要だというイメージです。

関与する全員が全員、既存の仕事に煽られていては高い集中力は発揮できませんから、捨てるものは捨て、集中できる人材を確保することが大事です。

最後に「自社の強みを生かした事業」は、ビジネスの定石として強く意識すべきポイントです。

冒頭の社長に聞いてビックリしたのですが、今進めている新規事業を出した社員は、「自分が好きなこと(やってみたいこと)」から発案したそうです。

料理が好きだから、飲食店経営をやろう! という発想と同じですが、そんな安易な考えだから、飲食店の廃業率は1年目で約3割。 2年目になると約5割が廃業し、3年目をむかえると7割にも達するとも言われています。

事業は、「好きなこと」でなくて、「得意なこと」で攻めるべきす。

「強み=他者から高い評価を受けた仕事」を強く意識して、ぜひこれまでの事業経験を棚卸してみてください。

新しいことを考えるのが新規事業の設計ではなく、自社の強み(高い他者評価)を持って、何ができるか?を考えるのが新規事業を成功させる最大のポイントです。

既存事業とのシナジー効果を意識しながら、ぜひ掘り起こしてみてください。
きっと、高い他者評価を得られた経験があるはずですから。