とことん「本質追求」コラム第470話 売れる企画は、お客様の声を聞くな!?

 

 

「この間のカンブリア宮殿みました? IKEAの改革は面白かったですね」

 

週末、旧知の経営者と話をしていたときに、珍しくテレビの話題で盛り上がりました。

 

世界的に売上が伸び悩んでいたIKEAの業績を回復させた施策が紹介されたのですが、ドラッカー 氏の言う「経営の目的は、顧客の創造である」の典型的な事例になるような内容で、思わずテレビ画面に釘付けになってしまいました。

 

IKEAの世界基準フォーマットは「郊外型の大型店舗」です。

巨大な店舗を作り、ファミリー層に対し、家具や雑貨そのものを訴求するのではなく、生活提案をする売り場づくりで顧客を魅了する戦略。

そのフォーマットが、ある時期に顧客に飽きられたのか…

日本のみならず世界のIKEAの売上が低迷していたそうです。

 

そこにメスを入れたのが、IKEA日本法人社長 ヘレン・フォン女史。

ターゲットをファミリー層から一人暮らしの若者に変え、都心への出店を目論んだのです。

 

しかし、オランダ本社のSEOからは、「なぜ都心に店が必要なんだ? 船橋にあるじゃないか!」とヘレン女史の提案を却下。

 

ここから、ヘレン女史の本領が発揮されたドキュメンタリーが始まりました。

 

結果的にヘレン女史の構想が身を結んだのですが、成功のポイントは2つありました。

 

「知恵を搾りまくった社内営業」「観察から理想を生み出す能力」の2つの要素です。

 

「都心に店舗を!」と進言する主張を却下されたヘレン女史は、自らの考えをトップマネジメントに理解してもらうため、なんと、本社のSEOをオランダから来日させ、満員電車に乗せたそうです。

 

おそらく、その目的は、「移動」の苦痛を体験させるためだったのでしょう。

 

そして、「船橋」と「原宿」などの都心への移動には、高い障壁が存在し、顧客を獲得でききれていない…ことを痛感させようと思ったのです。

 

どのような社内営業トークを使って、本社のSEOを来日させたのか分かりませんが、ファミリー層よりも「個」の需要が今後増えていくこと。

さらに「車を使った買い物」よりも「電車を使った買い物」や「ネットショッピング」が主流になっていくこと。

そうした「時代の流れ」にIKEAを軌道修正させなければマズイ…と強く感じていたに違いありません。

 

藤冨のセミナーでも良く伝えていますが、時代の流れを読むことは商売をする上でとても重要です。

時代の後押しの強弱と欲求の強弱をマトリックスにすると、欲求の強度が強く、時代の後押しのある事業分野は、稼ぎ頭になる可能性が高くなります。

 

 

これに自社の強みが重なり、シナジー効果の働く事業分野であれば、成功確度はぐんと上がります。

 

IKEAで、成長が鈍化していた時期は、稼ぎ頭から「期待の星」に移動していたのでしょう。

ただ、期待の星と言えば聞こえは良いですが、時代の後押しが弱いくのではなく「逆行」しているのであれば、時代が一巡するまで、「期待の星」で足踏みしたままになります。

 

だからこそ、「ファミリーではなく単身市場」「車社会から公共移動手段」に時代がシフトしていくのに合わせた「店舗のあり方」をIKEA日本法人社長のヘレン女史は断行しようとしたはずです。

 

視点も素晴らしいのですが、それよりもトップマネジメントを説得した社内営業が秀逸だったと藤冨は強く感じました。

 

 

ただ、社内営業で会社の方向性を変えても、新企画が成功しなければ意味もありません。

 

コロナ下の苦しい時期での開業となった「IKEA原宿店」は、その懸念を見事払拭したようです。

 

IKEA原宿店を開業するにあたり、ヘレン女史は、若者に声をかけ、住宅を内観させてもらい、日本の住宅事業を事細かに観察したそうです。

 

日本のマーケティング会社は、「どんな家具が欲しいか、アンケートを取ろう!」などと言い出しそうですが、顧客の声を聞いても売れる商品なんて開発できません。

 

逆です。

様々な人々に聞き、意見を集約しようと思えば思うほど「売れない商品企画」に成り下がります。

 

実体のない平均値が「幻」であるがように、人々の意見の集約した結果も「幻想」でしかないのです。

だからこそ、「観察」が大事。

顧客になり得る人々を観察して、「こうすれば良いのに!」と理想の姿を描くことが「本当の価値」になるのです。

 

「いま感じている不満」を聞き出すのは有効です。

しかし、「ニーズを引き出そう!」と思うのは、間違いです。

 

「不満、不便などの”不”の情報収集」や「観察からの推察」しか、売れる商品のアイディア出しはできないのです。

 

ヘレン女史は、多くの若者の家に上がり込み、狭い住宅をいかに快適に過ごすことができるか?を練り上げていったそうです。

 

シングルベッドトがダブルベッドトに早変わりするものや、狭いスペースでも効果的に収納できる家具など、「狭いというネガティブ材料」を「それでも快適に暮らせる家具」に変換する企画開発を一から作り込んでいったのです。

 

そして店作りでは、一人暮らしの居住スペースに、家具や雑貨の配置例を打ち出し、「こちら一部屋の家具、全部買っても37000円以下」というコピーで、たくさんの若者のハートを鷲掴みにしたそうです。

 

「事業の目的は、顧客を創造すること」

 

これだけ分かりやすくシンプルな事例は、そう多くはありません。

 

御社は、新しい顧客を創造していますか?