とことん「本質追求」コラム第100話 ハンパな覚悟なら「顧客第一主義」の看板は下ろしなさい。

「よくそれでCS(顧客満足)なんて言えますね」

営業マン時代、誰それ構わず、噛みつきまくっていた時期がありました。

 

「システムの不具合への対応」
「要求とは異なるプログラム」
「顧客を軽視するような判断」

 

営業現場で約束したことが守られない状況が続いた時や、経営理念に反した発言や判断をされた時は、社長であろうと幹部であろうと、社員としては、あるまじき態度でぶち切れていました。

 

「中途半端は標語なら、掲げない方がマシっすよ!」
「会社から給与貰っているわけじゃないっすよ。お客さんから貰っているです!」
「どうして出来ない事が前提になるんすか。そこで知恵を絞るのがシステム屋でしょ」

既存のお客さんを守るために…さらには新規で獲得した顧客と約束した提案を実現するために…力の限りイキがっていました。

「発言権を握るために、結果だけでは、徹底的に出してやる」
「会社を変えることが出来るのは、俺しかいない…」


今から思うと自意識過剰、独りよがりもいいところです。
慎むべき偏見や態度ばかりのサラリーマン時代でした。

 

どうやら、少年時代に兄貴に抑圧された過去があるためか…
力の強い方が、弱い方を小馬鹿にする世界を見ると、徹底的に戦いたくなる性分があるようです。

 

それでも、結果として…
「顧客」と「会社」を同時に守ることは充分にでき得る…という自信に繋がった経験でもありました。

 

実は、この経験がベースとなって、日本アイ・オー・シーの経営理念が作られています。

『全ての基準は「自社利益」と「顧客利益」の同時達成に焦点をあてること』

この永遠なる課題を追求するために、私はコンサルタントとして活動している、と言っても過言ではありません。

 

そのキッカケのひとつとなったが、心理学者のマズロー氏が書いた『完全なる経営』に書かれた考察に触れたときです。

 

同書を読み進めていくうちに、過去の実務経験が、走馬灯にように浮かび「あらゆるケースで証明したい!」という衝動に駆られたのです。

 

マズローは、冒頭で「人間の本性は、どれほど優れた社会を築きうるのか」そして「社会は、どれほど人間性を高めうるのか」と、問題提起をしています。

 

その根源は、「人間は本来責任を回避したがるもので、要求されたことしかせず、学習しようともしない。きちんとやりとげることなど期待できない」という前提にたった組織に対して憤りを感じていたのです。

 

「何世紀もの間、人間性は軽んじられてきた」

と、嘆くマズローは「自己実現」の定義を追求し、人と会社の関係性の解剖に尽力したのです。

 

ただ、447ページにも及ぶハードな本に目を凝らしても「自己実現」はこういうこと!という定義は、一言では書かれていません。

 

なので、本書で書かれていることを、私なりにまとめてみました。

 

「自らの才能や能力を完全に発揮して、利己的と利他的の二分法を解消した姿」

 

これを経営の現場に置き換えると、

 

「自社の経営資源をフル活用して、顧客満足を達成すると同時に、自社も適正な利益を享受する姿」

と言い換えられます。

 

この「自己実現」という概念…口でいうのは簡単です。

でも、実現するのは、本当に難しいものです。

それでも…

これからの企業が持続的に成長していくためには、実現しなくてはならないテーマだとも、私は考えています。

 

「顧客第一主義」や「顧客満足」を掲げる企業であれば、なおさら真摯に向き合わなくてはなりません。

 

お客様のために…
お客様の立場にたって…

表面的な言葉だけが一人歩きすると、「顧客主義」に共感した顧客自身だけでなく、優秀な社員までも、落胆してしまいます。

 

・  新規開拓が進まない。既存顧客が離れていく…
・  優秀な社員が集らない、寄り付かない、スグに離れていってしまう…。

このようなケースでは往々にして「標語」と「実務」が乖離している可能性があります。

 

そのような場合……

 

・  我が社の技術・人材をフル活用して、今の顧客に最大限の価値を提供できているだろうか?

 

・  本当に今の顧客か? もっと自社が提供する価値を、よりよく享受できるであろう市場はないのか?

 

・  本当に今この商品を売るべきなのか? 販売商品を整理して、顧客が本当に価値を感じるよう何か一つの商品を集中してブラッシュアップすべきではないだろうか。

 

・  この技術は、今の商品に活かしきれているだろうか。もっと価値を増幅する商品はないだろうか。

 

・  さらに、選んだ「市場」に本気でぶつかるだけの利益は、獲得できるであろうか?

 

と、熟考に熟考を重ねることが大切です。

 

あらゆる制約条件を取り払い、「デキる、デキない」の判断をせず、自社にとっての輝ける未来はどのようなカタチなのか。

 

新しい時代に突入しはじめた今、一度、踏みとどまってみることが必要なのではないでしょうか。