とことん「本質追求」コラム第577 話 モチベーションの源泉は、時代によって変わる。

 

「我々が、若い頃は”モチベーション研修”を実施したあと参加者全員が高揚して、会社がやる気に満ち溢れたものですが…今の若者には響かないんでしょうね。日本が地に落ちるような感じがしてなりません」

先週のコンサルティング現場で、コラムを読んでくれた社長が、若者の未来を危惧する感想を話してくれました。
社長は、藤冨とおおよそ同じくらいの年齢。
藤冨も、同じような印象を若者から受けていますが…
歴史を振り返り、モチベーションの源泉が変化していることが分かると、今の若者に響く「今風の動機付け」があるのでは…と感じています。
その理路をお話ししたら「なるほど、新しいアイデアがでそうです!」と、喜んでくれたので、皆さまにもシェアしたいと思います。

藤冨の肌感覚でわかる祖父母時代からモチベーションの源泉を遡って考察してみたいと思います。

1900年生まれの祖父の時代、戦前、戦後と大きな時代の節目を経験してきた世代です。
戦前、天皇は国家の象徴として、また実質的な「神」として国民から尊崇されていました。
第二次世界大戦下、多くの国民が徴兵され、自分の意思に反して戦闘に参加をしてきました。
4年にも及ぶ長期戦で、国民は財産と命さえも投げ出し、国家のために忠誠を尽くしました。
神である天皇に絶対的な忠誠心を示すためです。
しかし終戦直後、天皇はいわゆる「人間宣言」を発表しました。
当時、多くの国民は「マジか!?」とアゴが外れる思いをしたはずです。
だって、当時の国民は、天皇は古事記で描かれた天照大御神の子孫であると信じていて、自分自身も神の家族であると堅く信じていたのですから。
突然、精神的支柱を失った祖父母世代のモチベーションは「自尊心の回復あるいは、権力への抵抗力」だったのではないでしょうか。

次にその子として生まれた父母世代(現在70-80歳)は、焼け野原になった日本を復興させるべく、国民が一丸となって働きまくりました。
テレビCMの「24時間戦えますか?」に象徴されるように、身を粉にして働いて豊かさを享受しようと皆が頑張っていた時代です。
洗濯機が欲しい。
テレビが欲しい。
車が欲しい。
家が欲しい。
物欲を満たすことが、高度成長期時代に生きた人々のモチベーションの源泉になっていたのは、間違いありません。

祖父母の時代は、精神的支柱を失い、傷つけられた自尊心の回復やこれまで権力に翻弄されてきたことへの抵抗心がモチベーションの源泉であり、父母世代は物欲がモチベーションの源泉になっていました。

その親の経験を見聞きしてきた子供たちである我々世代は、デジタル世界の夜明けと共に社会に放り込まれました。インターネット、携帯電話、そしてさまざまなテクノロジーの進化が私たちの日常に浸透し始める中、我々のモチベーションの源泉は「権力やモノ神話の虚像からの脱却」だったように感じます。

圧政の時代を経て、禁欲から解放。
物欲旺盛な時代を経て、満たされたお腹を抱えて見渡すと、親世代の虚像空間に失望するだけでなく、環境は破壊され、資源の枯渇が懸念される時代になってしまった。

必然的に、今の若い世代は「本質的な幸福の追求」や「持続可能な未来の構築」をモチベーションとして捉えるようになりました。
就活生のアンケートによると85%もの若者が「社内の雰囲気が良い企業」を選好する傾向にあると言います。
こうしたデータを見て、我々世代を含む年寄り連中は「内向き志向でけしからん」と言います。
しかし、本質的には、共存を重視する意識が世代間に広がっていると受け取ることが出来ます。
モチベーションの源泉は、個人ごとに異なります。
と同時に、置かれた環境、時代によって、渇望感が異なるので、世代ごとにモチベーションの源泉が醸成されているのも間違いありません。

藤冨は、これを『時代の空気感』だと感じています。

この変化に着眼できていない旧態依然のモチーベーション研修は、若者世代にとって興ざめ以外の何者でもありません。

・利己的(自社の都合しか考えない)な目標設定
・社会的な存在意義が不明瞭な事業活動
などに辟易しているのです。

そんな無意味な研修を実施するよりも、日常業務の中で「共存」を感じられる環境を作り出した方が賢明です。

・顧客との共存
・社会との共存
・環境との共存

普段の仕事の中で、これらが感じ取られるようなマネジメントをすれば、必然的にエネルギーが出てきます。

現に20代の若い経営者と話すと、彼らは無意識的にモチベーションの源泉となる「共存」を意識しています。

とは言っても、そもそも論として『意識の高さ』も能力だと捉えると、その能力を持っているのは少数派のような気がしてなりません。

元も子もない話ですが『意識の高さ』を持ち合わせた活力ある人材は育てるものではなく、採用するものなのです。

社員のモチベーションを上げたいと願うならば、持続可能な社会に貢献するビジョンを掲げ、意識が高く、活力のある人材が寄ってくるような組織を目指すことが、本質的な課題解決に繋がります。

御社は、若い世代の視界を信じて、共存を感じるビジネスモデルへのチャレンジや、社内体制の確立に真摯に向き合っていきますか?