とことん「本質追求」コラム第107話 営業マンの利益意識が、企業の競争優位性を育む

「営業マンに原価なんて教えたら、利益スレスレで受注してきませんかね?」

先日、拙著「営業を設計する技術」をお読み頂いた方から、こんな質問を頂きました。
たしかに、その危惧はよく理解できます。
熾烈な顧客争奪戦を繰り広げる営業現場では、目の前にある受注は何としてでも欲しいの。

値引をしてでも受注を獲得したい…という気持ちが出るのは、ある意味当然の事です。
逆にその執念すらない営業マンは、営業部門のお荷物になるはずです。

 

しかし、私は、商品の原価を営業マンに公開することで、どこが受注獲得ラインの限界か…を理解させ、利幅の高い商売をするべきである…という主張を展開していたわけではありません。

 

もちろん、それも一利あります。
営業マンに「売上目標」があるのは、だれも不思議がりません。
それと同じように、「利益目標」があっても不思議ではないはずです。
営業マンは、定めた目標に向かって活動するのが普通ですから、売上と同じように、利益の獲得額を目標にすることは、ごくごく自然の行為であるはずです。

 

そもそも、1億円の商談を決めたところで、利益が100万円だったら商売なんて成り立ちません。

5000万円の商談であっても4000万円の粗利が獲得できる商品の方が、会社にとっては有益なハズです。

 

いたずらに勝手な妄想を繰り広げているわけではありません。
極めて鮮明に、実際にある業界をイメージしながら、利益の本質に迫っているのです。

 

具体的な名前をあげることが出来ないのですが、とある業界で、まったく同じ市場を狙い、同じ商品をもって熾烈な競争をしている2つの会社があります。
両社とも株式を公開しているので、財務諸表が入手可能な状態。
戦略に大きな違いがあるので、気になって2社の収益構造を見てみると…

 

驚いたことに両社ともに、ほぼ同じ売上高だったのですが、経常利益ベースでは、500倍もの差がついていたのです。

 

A社は、複数の事業を持って一市場に特化している会社。

B社は、ひとつの事業に絞り、複数の市場を攻めているのが特徴的な差でした。

 

A社の事業のひとつは、業界トップ企業が50%以上のシェアを握る業界で、差別化困難な商品にも関わらず、果敢(無謀?)にも、業界に戦いを挑んでいました。

しかし、どう見ても(顧客の視点から見た)差別化が出来ているとは見えません。
結果としても、シェアを伸ばすことは出来ておらず、売上も横ばい状態。

フタをあけてみた訳ではありませんが、こういった事業は間違いなく事業別損益を集計してみると赤字…良くても相当苦戦をしているハズです。

 

営業マンとしては分かりやすく売りやすい商品だから、積極的に仕掛けているのでしょう。
だからA社の事業別売上高では半分近くが、その事業が占めていました。
人件費を含めた営業コストが掛かるわりには、利益の稼げない事業。

 

このような事業の存在が許されているのは、営業マンに「利益」という概念が強くインストールされていないことが原因なのです。

 

もちろん経営者や事業監督者の戦略ミスが起因しています。

 

と言うもの、「利益」という概念を持ち出すと、目先の儲けを示す単純な事に聞こえますが、実は、「競争の優位性」と「利益」には強い相関関係があるのです。

 

A社のように「競争の優位性」のないところで一生懸命戦ったところで、利益獲得が厳しくなるばかりでなく、自社の存在価値も磨かれません

 

価値の競争でなく、価格の競争の結果、売上獲得をしているに過ぎないためです。

 

顧客の受け取る価値に真摯に向き合うことは、ドラッガー氏が事業の目的と喝破する「顧客の創造」に繋がっていきます。

顧客を創造するには、他社にはできない、自社ならでは…の「提供しうる価値」はなにか…を明確に浮き彫りにする必要性があるからです。

 

その価値を内包した「我が社として戦略的商品」、つまり売り込むべき商品を明確に定め、その粗利益額を高めに設定し、営業マンが「その商品を売ろう」という環境をいかにつくっていくか…。

その環境づくりが大切なのです…と「営業を設計する技術」では、主張していていたのです。

同じ業界にいながら、余計な事業には手を出さず、競争優位性の高い市場分野に集中しているB社は、そのことを鮮明に意識しているのでしょう。
500倍もの経常利益の差は、「営業力の差」でなく、自社の存在価値を磨き上げる商品に集中する営業環境をつくりあげようとした「戦略思考の差」なのです。

 

自らの営業活動が、自社の存在価値を磨き上げている…と知った営業マンのモチベーションを想像してみてください。

かたや、ただ闇雲に売上だけを追っかけることだけが目的となった営業マンのモチベーションを想像してみてください。

 

どちらが、持続的に成長していく企業か…想像に難しくないことでしょう。