とことん「本質追求」コラム第615話 空振りしない新事業の起こし方

「ローンチ(発売)まで半年必要です。全ての可能性を棚卸して、商品のあり方を検討しないと空振りする可能性がありますので…と、言われましたが、どう思いますか?』

クライアント企業さんが、製品デザインを依頼した先から、提言されたスケジュール。
ターゲットも、提供するベネフィットも明確なのに、そんなに時間が必要なの?
と、頭を傾げてしまいました。

大手コンサルティングファーム出身者のような発言ですが、MECE(ミーシー)を意識して、相応の金額を提示しようとしているのでしょう。

MECE(ミーシー)とは、漏れなく・ダブりなくテーマを検討し、結論を導き出すための論理的思考法です。

あらゆる可能性を見出す際には、MECE(ミーシー)はとても有効です。
一方で、焦点が絞られているテーマを扱う際や、経験値が蓄積されている場合は、ムダな作業が増え、イラズラに時間だけを費やしてしまいます。

例えば、社内に飲料の自動販売機を設置しようと総務部が検討したとしましょう。

MECE(ミーシー)的に考えると、パッケージ別(缶、ペットボトル、瓶)やターゲット別(男性向け、女性向け、若年層向け、中高年向け…)、カテゴリー別(清涼飲料水、お茶系、嗜好品系…)など、さまざまな飲料をピックアップし、漏れなくダブりなく検討しようとします。

あらゆる可能性を検討できるので、失敗の少ないアプローチに見えます。

しかし、社長は『就業時間中は、ビジネスに集中し生産性を極限まで高めろ』と事あるごとに口酸っぱく言い続けているとしましょう。

すると、社内に設置する自販機に入る飲料類は、絞られてきます。

1分たりとも集中力を切らすな!と言う厳格な行動指針があるのですから、副交感神経を刺激するようなリラックス系の飲料類は排除されるべきです。

つまり、ゴールから逆算すると、検討すべきテーマが限定されるので、MECEは単なるコスト増にしかならない多々存在するわけです。

空振りする可能性があるから…
と指摘されると、恐怖心が芽生え、安心感を得るために一応やっておいた方が良いかな…と感じるかも知れません。

しかし、恐怖心というのは、しばしば合理的な判断を曇らせるものです。
特に、クリアなターゲットとベネフィットがすでに定められている場合には、過剰な分析や検討は逆効果になることもあります。

実際のところ、市場に早く製品を投入し、実際の顧客の反応を見ながら改善を加えていく「リーンスタートアップ」のアプローチの方が、効果的であるケースが多いものです。

さらに言うならば、営業経験を積んでいると、顧客の反応が想定できるため、失敗リスクは最小限にすることが可能です。

営業は、様々な交渉をこなしているので、「こう説明すれば、このような反応が来るだろう」という想定ができます。

営業には、反論予防法という技術があります。
これは、事前に商談相手の「疑問や反論」を予測し、事前説明の段階で、伏線を打っておく方法です。

予めロープレで、この予測を徹底的に洗い出し、商談トークスクリプトに入れ込むので、成約率は必然的に高くなるわけです。

藤冨が携わるプロジェクトで、「お金の匂いがしてきた!」という表現を使う時は、このトークスクリプトが出来上がった瞬間です。

新規事業においても、成功するケースは企画段階で「営業トーク」が出来上がっている時は、十中八九成功します。
どれだけ少なく見積もっても、空振りすることはありません。

と言うよりは、空振りしないアプローチをしっかりと織り込むので、失敗しようがないと言う方が正しいかも知れません。

空振りの主な原因は、結論から言うと『具体性』が強すぎることです。

「総論賛成、各論反対」と言う言葉がある通り、各論にいけばいくほど、反論が生じやすくなるのは、皆様もイメージできると思います。

従って「抽象度を高めたコミュニケーション開発」から商品設計や営業設計を企画することが大事なのです。

具体的なテーマを挙げてみましょう。
以前、フリースクールを経営する方から新規事業の相談を受けたことがあります。

フリースクールにくる生徒は、いわゆる発達障害と言われている子供たちが多く、運営に手間がかかるそうです。
生徒数の増加とともに、先生の数も増やさざるを得ないので、利益の増加に限界があるとのこと。

ところが、視点を変えれば、この限界値を突破することができることをお伝えさせてもらいました。

発達障害の子供達を持つ親は、普通の学校には通えない彼らの将来が心配で仕方ないと思います。

しかし、スティーブ・ジョブズ(Apple)、ビル・ゲイツ(Microsoft)、イーロン・マスク(Tesla)など、発達障害の著名経営者や有名人は数多く存在しています。

この顧客ファクトを真正面から捉えると、発達障害を持つ親に何が提供できるか?が見えてきます。

「普通の学校に通えないのは、マイナス面ばかりでありません。子供たちの天才性が開花できる可能性を秘めた場だと、プラス面でみてあげてほしい欲しいのです」

と、親御さんにコミュニケートしたら、彼らは否定(反論)するのでしょうか?

この抽象度の高い話で、否定する人は少数派です。
いえ、相当の捻くれ者でない限り、否定する人はいません。

ところが、具体的な解決策を提示すると、否定者が増えてしまいます。

例えば、心理テストを通じて、天才性を発見するサービスを開発しました!
さらに子供の特性をさらに伸ばすキャリア開発プログラムまでご用意しています!

と、市場にコミュニケーションしたとしましょう。

あなたはどう感じましたか?

本当にその心理テストって、天才性が発見できるの?
または、キャリア開発?可能性のある子供達の視界は狭くならない?

などなど、様々な「反論」が生まれたはずです。

クライアントさんのビジネスを守るため、ここではどうやれば良いか…と言う具体策はお伝えできませんが…

反論が生まれにくい抽象度の高い商品設計をすれば、成功確率は飛躍的に伸びる!
このことだけご理解頂ければと思います。

いずれにせよ、商売が成立するか否かは、売り手のメッセージ力と受け手の感情の問題です。
手がける事業が、成功するか、失敗するか…その大きな「違い」は、この瞬間の構想力にかかっているのです。

御社は、事業計画をゴールから逆算していますか?それとも安心材料が欲しいがために、MECEで検討していますか?