とことん「本質追求」コラム第650話 独創的な商品力の生み出し方

「顧客の視点を経営に反映させるのは、なかなかハードルが高いですよね。キーエンスのように独創的な新商品を作り出す仕組みがあることは、羨ましい限りです」

先週のコラム「未来をつくる営業」をお読み頂いた読者さんから感想メールを頂戴しました。

同社でも顧客との対話を重視し、キーエンスのモノマネをして「ニーズカード」を集めているそうですが、「なかなか思うようにいかない」とのこと。

今日のコラムでは、顧客の声を生かした独創的な新商品の生み出し方を整理してお伝えしたいと思います。
ポイントは、3つあります。

1つ目は、顧客の声から「ニーズ」を引き出すスキルの習得、
2つ目は、市場性を評価する客観的な評価軸、
3つ目は、顧客利益を実現する「技術開発力」
となります。

それぞれポイントを絞って解説していきたいと思います。

1つ目の「顧客の声から“ニーズ”を引き出すスキルの習得」は、言うは易く行うは難し――まさにその典型だと、最近つくづく実感しています。

そもそもここで言う「ニーズ」とは、潜在ニーズを指しています。
潜在ニーズとは、“こうしたい”“こうありたい”とすら意識されていない、無自覚な欲求や違和感です。
つまり、本人すら気づいていない「問題」や「あるべき姿」が潜在ニーズなのです。

ということは、相手の発言や状況をただ聞くだけでは、潜在ニーズを引き出すことはできません。

相手以上に現状を整理・構造化して捉え、問題点を抽出し、あるべき姿を浮き彫りにするための「問いを立てる力」が必要とされます。

表面的な「質問力」ではなく、見えない問題の核心に迫る「問いを立てる力」です。

「慣習によって問題意識が薄れてしまっている業務」
「表面化している問題が、実は“氷山の一角”に過ぎないと認識されている状態」
「日々の業務に追われるあまり、本来の目的を見失っている現場」

このような状況では、“灯台下暗し”となり、当事者自身が本質的な課題に気づけていないことが少なくありません。

そこで、外部の視点から「問い」を投げかけることで、「本質的な問題」や「あるべき姿」が明らかになります。
そして、相手が「なんとかしなければ」と感じたとき –
この「なんとかしなきゃ」という感情こそが、「潜在ニーズ」なのです。

「問いを立てる力」とは、単に情報を聞き出す技術ではなく、相手とともに“思考の地図”を描き直す力を指します。
コミュニケーションスキルを超えた「ビジネス思考力」が要求されるので、鍛錬を続けることでしか習得できない力なのです。

次に潜在ニーズが聞き出せたら、次は「同じ課題を抱えている人たちはどのくらい存在するのか?」というマーケットに視点を向ける必要があります。「顧客の声」を「市場の声」として聞き直す作業ー。

これが、2つ目の「市場性を評価する客観的な評価軸」です。

単なる思いつきやアイデアレベルから脱し、マーケットが存在しているのかという確認を取らないと「思ったように売れない」という状態に陥ります。

開発にかかる先行投資や営業コストが回収できない事態に陥らないように、市場性を評価することは極めて重要です。

・マーケットニーズは確かに存在するのか?
・ニーズの源泉は、時代のトレンドなのか?
・代替案や競争相手より魅力的な提案ができるのか?
・我が社のリソースに見合った市場規模か?
・本当に買ってくれるのか?本当に使うのか?った顧客はメリットを感じるのか?

などなど、ターゲット層となる市場の声を真摯に聞くことが大切です。

この「一手間」をかけることが、埋没コストを抑制し、市場への普及速度を高めることに繋がるので、端折らないことが大事です。

最後は、確かなマーケットを確認できたら、その期待に応える「製品・技術、サービス」を提供できるかというステージに移行します。
3つ目の「顧客利益を実現する”技術開発力”」です。

市場の声を聞くうちに「こんな機能が必要だ」「このレベルまで仕様を高めないといけない」と言ったスペックレベルが定義されていきます。

オーバースペックにならず、要件不足にもならない的確な「技術開発テーマ」が設定されるはずです。
当然のことながら、この開発テーマを実現できなければ、モノレベルで市場の要求に応えることはできません。

技術開発とは単なる“作る行為”ではなく、「誰の、どんな困りごとを、どう解決するのか」という目的設定の明確化から始まります。

特にBtoB市場においては、開発した製品が「使いやすいか」や「現場で機能するか」といった“実運用に耐える仕様”であるかどうかが、導入の決め手になります。

このため、開発部門は「顧客の声=使用文脈」を深く理解しそれをもとに本当に必要な機能に絞り込んだ製品設計を行う必要があります。

名著「誰のためのデザイン」の中で、著者のD・Aノーマン氏は、ユーザー中心設計(UCD)の重要性を唱えていますが、技術者が「できること」だけで設計すると、顧客が「どう使うか」という視点が抜け落ち、結局採用されない製品になってしまいがちです。

同著では、「押すのか引くのか分からないドア」は、ユーザー視点の欠如がもたらす設計ミスの象徴だと指摘しました。
本当にその通りです。
技術部門は、アナグマのように社内に留まらず、「顧客の現場を観察」して、顧客利益の最大化を追求する姿勢を持つことが、とても大切です。

「市場の声を聞き、確かなニーズを見極め、それに応える技術開発力を持つこと」
この三位一体の取り組みこそが、独創的な商品力を生み出す原動力となります。

御社は、独創的な商品力を生み出す「原動力」を組織に根付かせていますか?