とことん「本質追求」コラム第652話 「頭でっかちマーケティング」が現場を停滞させる

『会議では、偉そうなことを言うのですが、実際に行動しなくて困っているんですよ…』

先日、仲良くさせていただいている社長さんと一献傾けながら、近況報告を伺った際、大学院でマーケティングを学んだ中途採用者の話題になりました。

どうやら理論を振りかざした問題発言が多くなり、他のスタッフにも悪影響を及ぼしているようです。

後日改めてお邪魔して、課題解決に参画させていただくことになりましたが、確かにこうしたケースは大なり小なり見かけられるものです。

『知っていること』と『分かっていること』は混同していて、頭でっかちになっているようです。
こうした人物がプロジェクトの中心人物になると大変。

会議室にプロジェクトメンバーが閉じこもり、いつまで経っても堂々巡りの議論が繰り返されるだけです。

誤解を恐れずに言えば、学校でマーケティングを学んだところで、会社の業績向上に繋げる実践力がなければ、何の意味もありません。

理論だけでは、現況は何も改善されないからです。

マーケティングとは、あくまで「顧客から注目され、選ばれるための仕組みづくり」であり、現場で試行錯誤を重ねて構築していく「実務」に他なりません。

非常に大切なポイントなので、詳しく解説していきたいと思います。

思うように売れない…と課題を抱えるプロジェクトに入り込むと、これまで試行錯誤してきた経緯を聞かされます。

フレームワークにキレイにまとめられた文章を見ると、あたかも成功できそうなプランにまとまっています。
ところが、なぜか金の匂いがしてこないのです。

ビジネスに立体感がなく、誰が欲しがっていて、どんな満足を感じるのか…全くイメージできないのです。
まさに、絵に描いた餅の状態。


一見すると美味しそうに見えても、実際には食べられない—
つまり、現場で売れるリアリティが欠けているのです。

マーケティングのフレームワークを使って「3C分析※」したところで、「顧客」に対する理解が薄ければ、分析しても無意味。厳しい言い方をすれば、仕事をしたフリをしているに過ぎません。

※顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から市場環境を分析するフレームワーク。

例えば、BtoBの場合、ビジネスとして成立させるには、買い手(想定顧客)の痛点と痛点を解消したときの経済効果を見い出す必要があります。

顧客という概念をふわっと「◯◯業界向け」としたところで、買い手の「購買意欲」を刺激することなんて、とてもできません。

さらに言えば、担当者の購買意欲を刺激できても、部門長や経営陣が「投資に見合う効果がある」と確信できなければ、最終的な意思決定には至りません。

BtoBの世界では、購買は「個人の感情」ではなく「組織の合理性」で動くためです。

だからこそ、商売相手が組織の場合、買い手(顧客)の痛点と解消した際の経済効果をクリアに言語化できるようにしておく必要があります。


また、同時に「購買理由の構造化」をしておくことも忘れてはなりません。

たとえば、ある製造業の設備更新案件で考えてみましょう。

現場責任者は「手間が減る」「トラブルが減る」ことを望み、経理部門は「投資対効果が見合うか」を見ています。そして、経営者層は「中長期での競争力につながるか」という視点を持っています。

このように、一つの商談の中に複数の「評価軸」が存在するのがBtoB商材の特徴です。

だからこそ、「便利です」「高性能です」といった一枚岩の売り文句では刺さらないのです。
それぞれの評価軸に対して、適切な言語で「導入効果」を語り分けることが求められます。

さらに、痛点と経済効果を数字で裏打ちすることも重要です。

例えば——
「作業時間が月あたり100時間短縮されます」
「不良率が5%改善され、年間コストで120万円削減されます」
「納期遅延が解消され、リードタイムが平均15%短縮されます」

こうした定量的データが、購買稟議書の「説得材料」になるのです。
BtoB業界のマーケティングは、
ここまで踏み込んだ「顧客の理解」が、ビジネスの成否を分けています。

つまり、製品企画の段階から「購買理由の構造化」をクリアに描いておく必要があるのです。

そのためには、企画段階から「顧客の声」を深掘りしなければなりません。
・現場が今どんなことに困っているのか?
・それを改善すると、どれだけのコストや時間が削減されるのか?
・その削減が、誰にとって最もメリットになるのか?
・その人が意思決定にどう影響を与えるのか?


こうしたヒアリングによって収集した事実(ファクト)をもとに、購買理由を構造化することが、企画の精度を高め、営業の効率化へとつながっていくのです。

この一連の流れをマーケティングと言います。

誤解を恐れずに言えば、業績向上につなげる真のマーケティングは、学校では学べません。現場で学び、鍛え上げるものなのだからです。

さらに言えば、マーケティングは一部の担当者だけが担う“部署の仕事”ではなく、本来は全社員で共有・強化していくべき組織能力です。

営業が拾った声、カスタマーサポートが感じた違和感、技術部門が直面した仕様変更の苦労—これらすべてが、マーケティングの材料になります。

こうした情報が点のまま散らばっているだけでは、成果には結びつきません。

点在している情報に文脈を与え、意味としてつなげていくことで、初めて「使える知見」に変わるのです。

御社は、マーケティングを組織的活動として捉え、仕組みとして機能させる準備は整っていますでしょうか。