とことん「本質追求」コラム第322話 成長企業が密かにやっている市場の絞り方。

 

 

 

「コンサルティングに入ってもらって、ようやく1500万円の営業利益を出すことが出来ました」

 

6月決算を無事に終えた社長と先週一献傾けながら打ち合わせをしてきました。

 

以前もコラムに固有名詞は出さずに書かせていただいたことがあるのですが、今回はズバリ具体的なことを書いても良いですよ!とご快諾いただいたので、10年以上も赤字を出し続けていた会社が、1年強で何をしてきたのか?を書かせていただきたいと思います。

 

同社は、社員数4名の小さな企業ですが、社長が極めて高い技術・ノウハウを持つ社会的存在意義の高い会社です。

 

具体的には、精密な水蒸気発生装置を作る企業で、本来であれば競争相手となる会社からも「この装置は作れない…」と仕入が起きているほど。

実際、私も仕入れ先メーカーの技術担当者にインタビューさせてもらったことがあるのですが、「わかっていても出来ないです」と、同社の社長のノウハウにすっかり敬服していました。

 

その瞬間に「この企業は絶対に伸びる!」と確信しました。

 

しかしながら、圧倒的な技術力を持つ同社が、何故10年間も鳴かず飛ばずの状態に甘んじていたのでしょうか?

伺えば、社会保険料や源泉税、消費税などの滞納が合計で3300万円になるほど、かなり深刻な経営状態だったそうです。

 

 

低迷の原因を、私なりに分析すると「プロダクト思考」であったことが主因と判断しました。

事業を持続的に安定成長させるためには、「コンセプト思考」でなければなりません。

 

同社を事例にして解説していきましょう。

 

同社は、以前「燃料電池の評価装置」を開発・製造していました。

事業を開始した時には、目のつけどころが当たり、ちゃんと利益を出していたそうです。

 

ところが、市場の潮目が変わり、パタリと注文が来なくなったそうです。

プロダクトに絞る怖さがここにあります。

 

中小企業は、特化戦略が重要であることは間違いないのですが、プロダクトに特化すると市場の流行り廃りによって、自社の業績も振り回されてしまいます。

 

従って、プロダクトで絞るのではなく、コンセプトで絞るという視点が大切なのです。

 

コンセプトで絞るとは、どういうことか?

本コラムを通読されている方は、すでにお分かりかも知れませんが、顧客が受け取る「価値」で事業を絞り込むことが、コンセプトで絞り込むという概念になります。

 

同社は、評価装置の開発、製造会社ですが、「燃料電池」に絞るのではなく、“精密にコントロール可能な”温度、湿度環境を提供するという価値で絞り込むことが、コンセプトで絞り込むことになります。

 

ちょっと分かりにくい概念だと思いますので、イメージをしやすい例を挙げてお話しします。

 

例えば、カメラの望遠レンズを製造しているメーカーは、品質保証をするために、様々な実験をします。

 

エベレストの写真を撮ろうとプロのカメラマンが重い機材を背負って、頂上まで行った途端レンズが曇ってしまったら、大変な損失に繋がります。

旅費や登山許可料など諸々700万円程度の実費だけでなく、雑誌社との約束期日までに成果物が提供できず、信用問題にまで発展します。

従って、レンズメーカーは、どのような環境の時に、どのような状態になる… という実験を繰り返さなければなりません。

 

様々な「温度」「湿度」の状態を作り出し、製品の評価テストを繰り返し、品質を保証するわけです。

 

 

レンズメーカーはあくまでも一例です。

他にも、温度や湿度によって、製品に不具合が起きたり、材質が変化してしまうと困る会社は山ほどあります。

 

車の部品メーカー。

家電メーカー。

薬や塗料など、粉体を商品とするメーカー。

 

様々な企業が、品質を保証するための条件をテストしているわけですが、同社は、この環境を作り出すプロ集団です。

 

決して、燃料電池を評価するだけの技術を持っている会社ではないのです。

 

 

燃料電池は、効率性、機能性、安定性で、より優れた技術が登場してきたら、需要は細ってしまいます。

しかし、温度や湿度の状態変化が起きる中で、品質を保証しなければいけない企業の需要は、細るはずがありません。

 

逆です。

 

さらに、需要は拡大していきます。

 

スマホだって、車だって、そこに入っている部品は、より小型化・高性能化していきます。

また、最近の日本は亜熱帯化が進んでいると言われています。

環境が変われば、品質保証の範囲もリセットする必要があります。

 

時代を考察すると、どう考えても需要は拡大するばかりです。

商売は、需要と供給で安定性や事業規模が決まりますが、需要面からみると、今後さらに伸び代は増えていきます。

 

また、供給面は上記の通りの競争相手となるはずの企業からも、「OEM供給して欲しい」「御社のブランドのままで良いから代理店営業させて欲しい」と言われるほど、供給面では独占できるほどのノウハウと技術力を持っています。

 

どれだけ甘く見積もっても「成長」の二文字しかありません。

 

コンセプトで絞るというスタンスを固め、商談が自動的、継続的に入ってくる「見込み客の集客エンジン」を稼働させていますが、来期の受注案件も着実に入ってきています。

今年受注した太い取引先からの継続受注も見込まれるため、もうすでに今期の数字にさえ不安要素がありません。

 

 

これが、コンセプトで市場を絞って成功している典型例になります。

 

御社の事業は、コンセプトで絞り、持続的な成長を描けていますでしょうか?