とことん「本質追求」コラム第94話 マーケットイン発想は通用しなくなったのか?!

『営業を設計する技術』を読んで、マーケットインの発想は間違っていた…と大いに反省しました。

 

とある読者の方から寄せられたコメントです。

 

拙著では、マーケットインの発想から繰り出される「要求対応思考」では、市場に翻弄されるだけである…と主張しました。

 

紙面の関係上、詳しく解説することは出来ませんでしたが、ここは「時代背景」が変われば、視点も変えなければなりません。

欲求に焦点を合わせ、顧客より「こんな商品が欲しかった」と思われるようなアプローチの重要性は、いつの時代でも変わりません。

実業家として、絶えず念頭に置かなければならない視点です。

 

しかし、要求対応思考は「通用する時代」と「通用しない時代」があることを理解する必要があります。

時代と言っても画一的にみることは出来ません。 
業界や市場毎に異なります。

人工知能などの「これからの商品」と、 
着物などの「これまでの商品」とでは、時代の捉え方が異なります。

つまり「商品ライフサイクル」に合わせて、戦略が異なってきます。

 

戦略は環境に沿って規定されるのです。

 

例えば、導入期で市場が未熟な時代。 
買い手には「要求」の存在がありません。 
しかし、実際に購入し、その商品を使用するうちに、「こんな機能があったほうがいい」「ここが不便だから解消してほしい」という要求が芽生えてきます。

このステージでは、マーケットの耳に声を傾ける必要があります。 
利用場面における不平不満を拾い上げ、商品の持続的ブラッシュアップしていくことで、市場から「こんな商品が欲しかった」と評価されます。

つまり「要求対応思考」の視点が必要になってくるのです。

しかし、商品の使い勝手がよくなり、さらに市場の裾野が広がっていくと、コンペティター(競合)がウヨウヨ集まってきます。

この時代になると、各社が差別化をはかり、「我が社はココが1番」「私どもはこんなところが一番優れている…」などと、買い手に対してアプローチをしていきます。

様々な選択基準とあらゆる情報が氾濫し、買い手は「私にとって最良な選択は何か…」が分からなくなり、思考停止状態に陥ります。

 

この状態になると、顧客からの「要求」は無くなります。 
それでもマーケットの声に耳を傾けようと、市場の声を拾い集めようと努力をしても… 
そこには「タテマエ」や「ニセ欲求」しか残っていません。

 

情報が氾濫し、顧客が思考停止状態に陥った時代では、マーケット調査をしても「ホンネ」は聞き出せないのです。

だからこそ、声を聞くのではなく、顧客の行動を観察して「ホンネ」はどこにあるのか…とクリエイティブする必要があるのです。

感情はウソをつきますが、行動はウソをつきません。

そのためでしょう。 
今「行動科学」が注目を集めているのです。

成熟市場では、行動を観察し、時代が求めていることを、市場が求めている事をクリエイティブしていくことが経営者には要求されてきます。

よく私の主催するセミナーでお話することですが、自社にとって有利な戦いができる市場をつくるチカラとは、まさにこの事です。

有利な戦いができる市場とは、「自社の強みが発揮できること」「時代の流れに沿っていること」そして意外にも多くの企業で見落としがちなのが「人間の欲求に深く突き刺さる商品であること」…この3要素がしっかりと噛み合っている「事業領域(事業ドメイン)」のことです。

 

「要求対応思考」で商品をブラッシュアップするのか。
「欲求充足思考」で事業をデザインするのか。

市場の状態をよく見極め、適宜適切な事業行動を起こすことが大切なのです。