「営業マンは、どうして事実を隠したがるのですかね」
お呼ばれ忘年会の宴が始まろうとするざわついた席で、社長がこそっとつぶやかれました。
年末最後の営業会議で、来年に向けての計画を作るために一年の振り返りを実施されたそうですが、失注案件の整理をしたところ、どうも営業マンの報告が解せなかったようです。
では…とお酒が回る前にその営業担当者を席に呼んで詳しくお話を聞くと、なるほど合点。
失注していた理由は、単なる「引き出しの少なさ」に起因していたのです。
宴会の席なので、社長が不審に感じた根本だけを把握して、追求は中断。
担当の方には、元の席に戻っていただき、気持ちよくお酒を飲んでもらいました。
仕事柄、様々な企業の営業会議に参画させていただき、営業における課題抽出や解決アプローチの提示などのサポートを行なっていますが、営業担当者から現状、事実が社内で共有されないのは、ある意味仕方のないことでもあります。
担当者に責任はありません。
この責任の所在は、会議の進行役にあるためです。
- 営業担当者の声にならない声の言語化。
- 起こった事実の裏に潜む「背景」「前後関係」「パターン」などを紐解き。
営業報告からこの2大テーマに神経を尖らせた進行役が本質究明をしないことには、営業上における本質的な課題は解決されません。
課題が山積みになったままでは、業績拡大の足枷(あしかせ)になってしまいます。早急に大掃除を行い、受注活動におけるボトルネックを取り外す必要があるのです。
そもそも、営業担当者の声にならない声が存在するのは、「仕方のないこと」として捉える必要があります。
報告しないのではなく、報告すべきことが認識できないことが多いためです。
数々の名言を残した古代ローマ時代の政治家であり、軍人や文筆家の肩書きも持つカエサルは、この本質にズバリ言及しています。
「人は現実のすべてが見えるわけではなく、多くの人は見たいと思う現実しか見ない」と。
自尊心が現実を歪曲するのでしょうか。
それとも、知識の質と量によって、現実がズレてしまうのでしょうか。
「見たいものしか見ない」「見たいように世界を変換してしまう」習性の原因となるものは分かりませんが…
この習性は、どんなに優れた人物であろうと、大なり小なりあろうかと思います。
人間が生まれ持った習性だと解釈したほうが無難です。
しかし、だからと言って、現実がそのままの容積で掌握できなければ、課題を明確にすることができません。
課題を明確にできなければ、解決に向けた正しいアプローチができませんから、ずっと「受注のボトルネック」として放置されたままになります。
受注効率が落ちれば、目の前の業績に影響するだけでなく、営業マンの士気も気が付かぬうちに下げてしまいます。
勝ち戦は、自然と士気が上がるものですが、負け戦が続くと自尊心を守ろうと保守的な行動が多くなるためです。
何としてでも、事実をそのままの容積で掴まえて、正しい現状認識の元に、課題を浮き彫りにし、受注のボトルネックを外さなくてはなりません。
そのためには、会議の進行役が、現場営業マンの報告を受けて、その商談で起きている事実、事実の裏側に存在する「背景」「前後関係」又は、「パターン特性」を浮き彫りにして、そこに潜む「本当の課題」を明確にする必要があります。
やはり、百戦錬磨の営業経験者が適任でしょう。
- ネゴシエーションの過程で、浮き彫りになった「商談の障壁」
- その商談障壁をくぐり抜けた経験。
など豊富な引き出しと報告者の事実を照らし合わせながら、「もしかしたら、こんな状況に陥っていないか?」と投げ掛ける必要があるためです。
そして、この時に絶対的なルールが必要となります。
- 報告者を叱らないことです。
どうしても叱りたくなったら、手帳に指摘事項を書いておき、翌日呼び出して指摘・指導をしてください。
その場で叱ってしまうと、当の本人のみならず、周りの営業マンも事実を報告する気力が失せてしまいます。
失注や商談停滞の原因を人の能力のせいにするのではなく、あくまでも仕組みに問題があることを前提に会議を進めることで、活発な意見が出る様になっていきます。
今の会議体質が、そうでない場合は根気強く「文化」を根付かせる必要がありますが、急がば回れと言います。
組織的に商談効率を上げていくための素地を作るためには、受注ボトルネックを外すための組織的な学習が必要です。
御社では、受注ボトルネックを正しく掌握し、解決に向けた的確なアプローチを行なっていますでしょうか?