とことん「本質追求」コラム第398話 持続的に成長している企業のスローガン

 

 

 

「明けましておめでとうございます。お陰様で売上が2桁ペースで伸び続けています」

 

 

5年ほど前にプロジェクトをご一緒した社長さんから、毎年嬉しい年賀状が届きます。

 

同社は、当時価格競争に頭を抱えており、どうやって昔のような利益体質に戻せるか? という命題を抱えていました。

 

 

当初は、既存商品を既存市場に対して、少し商品の見せ方を変えて波及営業を試みました。

 

ターゲット市場に対して、「あの会社が使っているなら、優れた商品に違いない」と感じてもらえるようなインパクトユーザーからのインタビューも貰いましたが、

多少の反応は見られるものの、芳しい成果ではありません。

 

やはり、大手企業ならともかく、中小製造業においては、機能、品質などの特徴が競合他社と大差がなくなり、商品選択の基準が価格優位になってしまったコモディティ事業は、もはや営業力だけでは高利益体質を築くことができないことを痛感させられました。

 

そこで、発想を180度変えて「この商品が顧客に与えているメリットなら、あの市場にも受け入れてもらえるのでは?」と思い切って新市場を開拓する路線に切り替えました。

 

もちろん、インパクトユーザーは不在。

したがって、モデルユーザーと定めた企業にテスト導入と称して利用してもらい、導入効果を実感してもらったところ、予想を超える高評価。

 

コストパフォーマンスも十分に取れている実感も得られ、この市場なら確実に広がっていく!と確信を持って事業を推進していった結果、1年半後には全体売上の2割近くまで急成長したプロジェクトになりました。

 

 

その後は、私は、このプロジェクトからずっと離れていたのですが、同社の社長がこの経験を糧に、あるスローガンをあげたそうです。

 

 

そのままズバリなのですが「商品が顧客へ与える貢献度の追求」というものです。

 

 

新規市場を開拓する過程では、当然ながら「新たなニーズ」が明確になり、機能や性能の見直しが要求されることがあります。

 

当初、その場、その場で真摯に対応していたようです。

価格競争とは無縁だったので、十分な利益が確保できるのも、ニーズ吸収の原資となっていました。

しかし、何よりも現場の士気を高めたのは、「自分たちの仕事が顧客、市場、社会の役に立っている」という自負です。

 

「きっと満足が得られますから…」と本心で思う気持ちの強さが、営業の強いアタック力となって、成果を生み出していったようです。

 

もちろん、営業力だけではありません。

会社のスローガンになっているので、組織的に強い使命感が醸成され、全社的に士気が高まったとのこと。

 

活動内容を伺うと、製造部門と営業部門が定期的にミーティングを行い、自社商品のダメ出し会を行なったそうです。

 

新規市場を開拓する過程で出たニーズへの対応も、このダメ出し会で討議されています。

そして、このダメ出し会から起案された「商品改良案」は、営業部の責任でも製造部門の責任でもありません。

 

「商品が顧客へ与える貢献度の追求」という観点から「ダメ出し会」が行われ、そこで出た結論…つまり「商品改良案の決定」内容の責任は、その討議を見守った社長一人であると、全社員が共通認識を持つように仕向けたとのことでした。

 

営業部門は、市場の声に真摯に耳を傾ける社長を信頼し、製造部門は、自信を持ってアイディアを製品化する想像力を発揮できているわけです。

 

そして、今では「きっとこんなニーズが出るに違いない…」「しかし当社商品はそれに対応できていない、先手を打つべきではないか?」と「顧客が商品に与える貢献度を自らの頭で考える会議に進化していった」と冒頭の社長が報告してくれました。

 

自らの商品を自己否定できる雰囲気を会議内で醸成させ、それを進化・改良する糸口を見つけられる組織は、競合他社が付け入る隙を与えません。

 

結果、同社が新規開拓した市場は、4年経った今でも1社も競合他社の参入を許していません。

まさに独壇場です。

 

 

中小企業において、よく社長が起案したアイディアが社内で実現されず、いつまで経っても組織的活動に組み込まれないケースや、逆に社員が出したアイディアが社長の鶴の一声で却下されるケースをよく見聞きします。

 

物理的には真逆のケースですが、解決するアプローチは共通しています。

 

社長と社員がテーブルを一つにして、商品が与える顧客利益の追求について真摯な討議を行うだけです。

 

今から27年も前に初版発行されたP・Fドラッカー氏の「ポスト資本主義」において、経済における最大の価値は「資本から生まれる生産」ではなく「知識から生まれるイノベーション」である。と切り込んでいました。

そして「事業の出発点は顧客である」と主張していたドラッカーが言う知識とは、

顧客利益に対する知識だと解釈できます。

 

マスメディアの力が希薄化され、個人と個人が結びつき合うインターネットが人々の情報源と移行した中、ますます本質的な「顧客利益」が問われるようになっています。

 

御社でも、全社的な活動の一環の中で「顧客利益を追求する仕組み」を組織的にインストールされていますでしょうか?