とことん「本質追求」コラム第68話 主観的な言葉を使っている限りは、売れません…。

先週末、半年前に講演会で知り合った食品メーカーの専務から、ご丁寧なお手紙と共に、美味しい調味料を頂きました。 
その手紙には・・・お陰様で地元の有力スーパー、全店で取り扱ってくれることになりました! と言う嬉しい報告が。 
講演会終了後に、駆け寄ってきた専務さんは「ウチの新規開拓が弱い理由がわかりました。今日の話しを実践してみたいのですが、後日相談に乗ってもらえますか?」と、言われたので、1週間後の週末に伺うことにしました。 
会社につくと、待ち構えていたように、新商品である「鳥の出汁で作った調味料」を使った料理が運ばれてきました。

これが本当にインスタント??? 
驚くほどの美味です。 
個人的には、ほとんど「合わせ調味料」を購入しない生活をしているので、レベルの高さに正直ビックリしました。

美味しいと頬張る私を見て、微笑んでくれた専務でしたが、「これは本当に何でも旨くなる”万能調味料”なんです。でも中々それを理解してもらえず、スーパーも取り扱ってくれないんです」と肩を落としていました。

真剣な眼差しだったので、遠回りに言い方はやめズバリとご指摘しました。

「確かにこれでは売れませんね。まず”万能”といった時点で、魅力が半減します。それと美味しさというのは、主観的な言葉なので相手には伝わりません。もっと客観的に基準をもった切り口を用意しないと、バイヤーさんは反応しないでしょう

とお伝えしました。

キョトンとした様子だったので、ある事例をお話してイメージを想起してもらうことにしました。

「ハウス食品のシナモンシュガーの成功事例はご存知ですか? この提案は新規開拓でとても重要な示唆を与えてくれているんです」と切り出しました。

ハウス食品の「シナモンシュガー」は、スパイス市場の中で驚異的な売上を記録した大ヒット商品です。

スパイス市場は、家庭での利用頻度が少ないですし、衝動買いになりにくい商品のため、ヒット商品を創りだすのは難しい…というのが業界の常識です。

実際、スパイス売り場を見ても、ターメリック、タイム、ローズマリーなど、マニアックな商品がずらっと並んでいます。
一味とうがらしや胡椒など、完全に目的買いの商品以外には、限られた場面でしか購入されそうにありません。

つまり、どんなにコンセプトが鋭く、目新しい商品を市場に投入しても、スパイスの「棚」に埋もれてしまうのです。

シナモンシュガーも当初は行き詰まっていました。「振り掛けるだけでパンを美味しく食べる調味料」というコンセプトでしたが、スパイスの棚からでは、消費者にうまく伝達できなかった為です。

ところが、名古屋支店のある営業マンが、スパイスの棚ではなく「パン売り場の横に置いてほしい」とスーパーの担当者に提案しました。

これで、パンを買いに来た買い物客は、「パンに振り掛けるだけのスパイス…これは便利だ…」と認知して、爆発的な販売力を見せたのです。

そして、このケースが全国のスーパーに飛び火し、当初の売上目標1億円を軽く超え、7億円に上方修正されたほどの記録を残しました。

単に『美味しい…』といった商品では、ここまでのヒットにはなりません。

シナモンシュガーは『美味しさ』を販売しているだけでなく、『朝の忙しい時間帯に、調理という作業時間をタイムセーブする商品』を購入してもらっているのです。

高度成長期は、この「タイムセーブ」という概念を持った商品が飛ぶように売れました。
新幹線、カップラーメン、マクドナルド…。
すべて「時間」を販売しています。

美味しさは図れませんし、人によって好みが違います。つまり主観的要素なので、人に伝わりにくいのです。
ところが、時間は誰が聞いても同じ尺度で会話ができます。
客観的であるがゆえに、伝わるのです。

専務にこのお話をすると、顔色が急に変わりました。

「その路線なら…味噌汁を毎朝作るのは面倒ですけど、この調味料で作ったスープなら具材は選ばないし、タイムセーブできます!」と勘所を得たようです。

3ヶ月ほどかけて、ビンにかぶせるように乗せる「ラベル」を改定し、営業周りに出かけたところ、難攻不落だったスーパーへの販路が開拓できた…との事でした。

市場開拓は、力技ではなかなか突破できません。
知恵が勝負を握るのです。

今一度、我が社の商品は「何を販売しているのか…」を問いなおして見ると、意外な突破口が見えてくるかも知れません。

※本記事は、クライアントさんのご了解を頂いて配信しております。

追伸
2020年、東京オリンピックの開催が決定しました。
日本にとっては非常に明るいニュースで、私もウキウキしています。
今後の7年間、景気が沸騰してくると、シナモンシュガーのような「タイムセーブ」という概念は売れるキーワードになってきます。
低成長期時代は、停滞した概念ですが今一度見直すチャンスです。