とことん「本質追求」コラム第566話 上司が「成功体験」に捉われていたら会社を辞めるべきか?

「人間は、見たいものしか見えないとよく言いますが、先日のコラムを読んで”まさに…”と感じてしまいました。今の会社を辞めるか否か、結構真剣に悩んでいます」

5/23の「第565話 輝く未来を創造する3つの問い」を読んだ、サラリーマンらしき読者さんから、自分の上司(社長?)に嫌気を指していると感じられるメールが送られてきました。

お勤めになっている会社の情報が分からないので、無責任な回答はできませんが、先週のコラムは補足が必要だと感じました。

というのも、感情的にならず、論理的な思考回路を持って「正しい現状把握」をすることが大事だとお伝えしましたが…

その文脈を読み取って、「見たいものしか見えない”感情的で視野の狭い上司(経営者?)”についていくのは嫌だ!」と感じたのでしょう。

間違った認識をされないためにも、念のため藤冨の意図を正確にお伝えさせてください。

感情的になってはいけない…と指摘したのは、判断ではなく、現状把握においてです。
正しく現状把握した上での、感情的な対応であれば、全て「間違っている」とは言い切れません。

特に一代で事業を成長させてきた創業者は、おしなべて「生き抜くための動物的な勘」の鋭い方が多いものです。
言語化はできないけど、それはイケる! それはアカン!と、的確な判断をされることが多い。

もちろん、途中”紆余曲折”する場合もあり、社員の方も振り回されたように感じるかも知れませんが、強い胆力を持って計画を力づくでも成し遂げてしまう社長もたくさんいます。

藤冨も「金の匂いがしてきた…」という表現をよく使いますが、なんとも言えない独特の勘が働く瞬間は、本当にあるのです。
もちろん、それでも「あれ?読みと違う!」という時もあります。

その原因は、何か?
前提条件を掌握しきれていなかった時なのです。

動物的な勘が正しく働くときは、成功するための前提条件となる「現状把握」ができている時に限ります。

今回、メールにて感想を送ってくれたサラリーマンの方には、ここを改めて咀嚼(そしゃく)してほしいです。

上司(経営者)の動物的な勘を正しく働かすための、材料…つまり”現状”を正しく伝えるための情報を伝えることが部下の役目と認識すれば、短絡的に”辞める”とはならないはずです。

会社を辞めるのは簡単です。
でも、どうせ辞めるなら、逃げるように去るのは、非常にもったいない。

どうせ辞めるなら、やるべきことを徹底的にやってからの方が、後々自分の人生に良い影響をもたらしてくれるのは間違いないからです。

「努力に即効性はなし。でも裏切らない」という、故野村監督は間違いありません。

そもそも「人間は、見たいものしか見えない」という認識は、その人を「都合の良い感情的な人間である」とか「視野が狭く、器の小さい人間である」という結論に導きやすく、現実よりも低い評価をしてしまい兼ねません。

でも「人間は、見たいものしか見えない」という特性は、どうやら感情や人間性の問題ではないようです。

脳科学をひも解くと、それは人間であるが故の特性だということが明らかになっています。
もし「なんだ、見たいものしか見ない」のは、脳の自然なる特性だと理解できれば、上司に対して寛容になりませんか?
そう期待して、藤冨が理解している範囲で、脳のロジックを解説してみたいと思います。

どうやら脳はできる限り少ないエネルギーで、効率的な働きをするよう設計されているようです。
具体的には、視覚、聴覚などから収集した情報を情報を分析し、どのような判断をすべきか…これをゼロから認知→分析→判断するのは極めて非効率的。
だから、認知、分析をショートカットする機能が組み込まれているのです。

入手した情報の「存在背景」「性質」「外部への影響力」など、イチイチ分析するには、さらなる情報収集が必要となり脳を動かすためのエネルギーは膨大になっていきます。

そこでイチイチ分析しなくても、過去の経験上こんなものだろう…という予測をすることで、脳を動かすエネルギーを節約しているそう。

これは、誰にでも備わっている「脳の情報処理効率化」の仕組みなのです。

赤く丸い果物を見て「これはリンゴかもしれないが、本当にリンゴだろうか。目から入ってきた映像と他の食物と比較して確認してみよう」とか、「このりんごは、食べられるだろうか。まさか毒りんごじゃないだろうか」とイチイチ分析していたら脳を酷使するだけでなく、時間がいくらあっても足りません。

赤い丸い果物が、八百屋で売っていたら「食べられるリンゴだ」と、即座に認知・分析することで効率的な人間生活が営めるようになっているわけです。

神様すごい!
そう考えることが出来たら「人間が成功体験に引きずられ、正しい現状認識」が出来ないのは、ある意味当然のことだと理解できると思います。

したがって、上司や経営者が、現場にそぐわない指示をした時には「正しい現状認識のための材料がそろっていないのかも」と認識し、その上長に現場の情報など必要材料をしっかりと伝えることが大事。

この努力をすることは、ある意思決定を行うのに、必要な材料が漏れていないか…と想定する力を養うことが出来ますし、上司(第三者)を説得する…という実力にもつながります。

辞めるのは、いつでも出来ます。
でも、実力を上げるためのチャンスは、そうそうありません。

感想メールを送ってもらったお礼に代えて、エールを送ります。
もう一度立ち止まって、自分の実力を高めるチャンスに変えてみませんか?