とことん「本質追求」コラム第601話 顕在ニーズを見ると地獄。潜在ニーズを見ると天国が見える理由

先週末は、無事出版記念セミナーを開催し、たくさんのコラムの読者様に囲まれて、とても幸せな時間を過ごすことが出来ました。
この場を借りて、御礼を申し上げます。

当日のセミナーは…

1. なぜ、部門横断チームが必要なのか?
2.ケーススタディからチームの意義を検証する[ キーエンスは、なぜ強いのか? ]
3.変化対応力の高い組織をつくる3つのポイント
4.チームの方向性と役割を明確にする
5.チームが機能するための5つの基本ルール 
6.部門横断チームが「会社の未来」を変える!

の6部構成でお伝えしました。

お陰様を持ちまして、非常に良い95.2%、まあまあ良い4.8%、ありきたりの内容0%、不満0%といったアンケート結果となり、ホッと胸を撫で下ろしています。

中でも「顕在ニーズを鵜呑みにせず、潜在ニーズを見つけ出す方法」について、勉強になった!、聞いておいてよかった!とご感想をいただき、私の最もお伝えしたい内容を汲み取ってもらえたことも嬉しかったです。

本日のコラムは、セミナーでご紹介した内容をさらに深掘りして、読者の皆様にもお届けしたいと思います。

さて、顕在ニーズと潜在ニーズの相違点は、読んで字のごとく、買い手が「知覚や自覚している欲求=見える欲求」と「知覚・自覚できていない欲求=見えない欲求」の差です。

ニーズに基づいて開発したのに、思うように売れないじゃないか!
売れるには、売れるけど、全く儲からないよ…
他社商品は、めちゃ売れているのに、何故かウチは売れない(涙)

など、悩ましい事態に追い込まれているケースに陥っている原因は、十中八九「顕在ニーズを鵜呑みにしているか」または「ニーズそのものを無視している」場合です。

お客様が欲しいって言うんだから、売れるに違いない。
こんな画期的な商品だったら、必ず売れるハズだ!


こうした思い込みは、失敗の原因になります。
思い込みは、あくまでも「幻想」だからです。

顕在ニーズを鵜呑みにすると何故失敗を招くのか?

5つのケースを考察し、皆様の今後の経営において、魔の手に陥るリスクを少しでも減らしてもらえれば幸いです。

まず1つ目は、すでに市場がレッドオーシャンだと気づけなかったケースです。

そもそも 顕在ニーズは多くの企業によってすでに認識されているため、市場には同様の製品やサービスで溢れかえっている可能性があります。これにより、新規参入者は激しい競争に直面し、差別化が困難になります。

2つ目のケースは、まったく儲からないケースです。
1つめのケースと密接に絡んでいますが、競争が激しく商品の差別化も不可価値として認められない市場だと、価格競争に陥らざるを得ません。
結果、労多くして益少なし…という結果を招いてしまいます。
キーエンスが業界・世界初の新商品開発にチカラを入れるのとは、真逆の状態です。

3つ目は、最初は売れたけど、長続きしなかったケースです。
顕在ニーズは今の声です。どこまでそのニーズが聞こえてくるか分かりません。
ご存知の通り、商品にはライフサイクルがあります。
成熟に聞こえてくる「顕在ニーズ」に耳を傾けても、商品寿命には抗えません。
タイミング・イズ・マネーを意識していきたいものです。

4つ目は、潜在ニーズの見落としです。
iPhoneは、2008年に「電話を再発明しました!」と華々しくデビューしました。
しかし、その前からビジネスユーザー向けの通信機能に特化した製品を提供して成功を収めていたBlackBerryは、スマホの元祖としての地位を築いてたはずです。
ところが、一般消費者は、キーボードにアレルギー反応を持つ人が多い。ネット閲覧もBlackBerryのような小さな画面では見にくい。
それを逆手をとって「潜在ニーズ」をことごとくカバーしていったのが、iPhoneです。
BlackBerryも、一般消費者の潜在ニーズに気づき、誰にとっても使いやすいプロダクトインターフェイスを追求していれば、iPhoneの登場を許さなかったかも知れません。

5つ目は、イノベーションの欠如によるチャンスの喪失です。
藤冨は、サラリーマン時代にIT企業に勤めていました。
ある開発プロジェクトで、企業の経理部長から「仕入先からの請求明細を取り込んで、自社の検品データと付け合わせてチェックしたい!」という要望がありました。
しかし、なぜ明細データを付け合わせないといけないのか、私には全く理解できません。
請求合計が合っていればOK。差分が出たら、ドリルダウンして、チェックする仕組みの方が「作業工数」が明らかに減るはず…と考えたからです。

結果、藤冨の構想が正しいと相手企業のシステム部門や上層部から判断され、合計データチェックシステムが稼働。
このシステムは、他企業からも評価され、その後新規開拓の武器となりましたが…
当初、顧客の顕在ニーズをそのままニーズを鵜呑みにしていたら、システムを入れたのに、まったく作業効率が改善しないモノを作ってしまっていたことになります。
これまでの習慣やアイデアに依存する限り、イノベーションは生まれないのです。


顕在ニーズを鵜呑みした結果、骨折り損のくたびれもうけになったばかりでなく、成長のチャンスを逃したり、莫大な損失を抱えてしまったりすることは、決して稀なことではありません。


・マーケットが小さすぎで商売にならなかった
・すでにレッドオーシャン市場だった
・ある特定の顧客の要望で、他にニーズはなかった
・我々から購入する理由が、買い手にはなかった
・市場投入のタイミングが遅れ、営業が苦戦した

と後から後悔しないよう、顕在ニーズの全体像と背後にある文脈を読み取り、真の潜在ニーズを深掘りしていく「知的努力」を怠らないようにしたいものです。

御社は、ニーズを鵜呑みにせず、真の潜在ニーズを深ぼる努力をしていますか?

[著 藤冨雅則]